『fOUL』を見た

fOUL』のライブを見てきた。

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fOULとは1994年、谷口健と大地大介、平松学によって結成されたハードコア・パンクのバンドである。

結成以前、谷口健はBEYONDSというバンドをやっていた。

BEYONDSはNUKEY PIKESやVolume Dealersらとともに90年代の前半、三軒茶屋ヘブンズドアで開催されていた連続企画『ネオ・ハードコア・テイル』を牽引したバンドだ。

現在からみればメロディック・ハードコア(not メロコア)の先触れとして評価されることになるだろうが、このイベントはその名のとおり、新しい種類のハードコアを生み出していく運動だった。

当時のハードコアに対するパブリック・イメージ、つまりジャパニーズ・ハードコアを、音楽とファッション、佇まい、つまり文化として乗り越えることを意図した運動であり、現在のハードコアの多様性のルーツをここに見ることもできるだろう。

fOULはそんな多様性の先に生まれたバンドである。

音源を再生すれば、誰もが感じる「変」こそがfOULの真髄だ。はっきりいって、きもちわるかった。音源をきいて素直に「好きになれない」と感じた私だが、たまたま対バンが目当てで観に行った企画でfOULを見て、一瞬で虜になってしまった。

では、彼らはライブバンドなのか。というと、虜になってしまってから音源を聞き返すと、たまらないとしか感じない。「変」は変わらないが、受け入れられなさはもう思い出すことができない。私にとって、fOULとはそういう奇妙な体験と共にある。

fOULの名前の由来には、80年代に活躍したUSハードコア・バンドMinutemenのメンバーが後に結成したfIREHOUSEの"f"が使われている。MinutemenやfIREHOUSEもまた奇妙なバンドだが、fOULが彼らから受け継いだのはスタイルではなく「なにものにも似ていない」という在り方だった。fOUL以前に、そしてfOUL以降にも、fOULと似ているバンドはひとつも存在しない。

fOULeastern youthNAHTbloodthirsty butchersらと共に自主企画『砂上の楼閣』を開催。企画は34回をもって終了。2005年、「fOULの休憩」と称する活動停止を表明した。eastern youthfOULのためだけに存在した自主レーベル「坂本商店」もまたその役割を終え、全アルバムが廃盤のまま、現在に至る。

そのfOULのライブを、見ることができる。

「突き抜けたかっこよさ」を表現し続ける音楽レーベルLess Than TVと、そのオーナー谷ぐち順一家のドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』を監督した大槻規湖によるfOULのライブ映画が公開されている。

「破格の成功もない。感動のドラマもない。知られざる真実や内幕もない」とみずから称する通り、この映画はほとんどすべてライブ映像でつくられている。ドキュメンタリー映画を期待すると肩透かしをくらうだろう。新宿シネマートの入り口には今、下北沢SHELTERの壁が再現されている。SHELTERの階段をおりていく気持ちで観に行くべき映画なのだ。

fOULeastern youthPAを担当した今井朋美、そして元eastern youthのベーシスト二宮友和の手掛ける音楽のミックスは、ライブハウス以上にライブハウスだった。

fOULのライブを見ている。

fOULのライブを、また見ることができた。

さてしかし、ほぼライブであるとはいえ、いくつかの断片的な言葉から読み取ることができることもある。

fOULはYシャツでライブをする。この佇まいは、今やさほど不自然でもない。

作中で谷口はeastern youth吉野寿から「そのままの方がいいよ」とアドバイスされたことを明かしている。谷口は鋲ジャンでもモヒカンでもないスーツ、しかも七三分けのパンクバンド(谷口のあの髪型は七三なのか?)、これを「怖いのではないか」という。90年代のライブハウスでハードコア・バンドをやる時、fOULの佇まいがいかに異質だったのかが伺える。谷口健は、普段はスーツで仕事をしている人間の剥き出しの姿、外側と内側を同時にさらけ出すことで"ヤバさ"を生みだそうとしていたのだ。このヤバさ=怖さへの関心は、谷口健のEVIL SCHOOL*1にも通ずるし、この方法は「ヤバい男」こと向井秀徳が引き継ぎ、実践していく。

また「20年後の自分は何をしているか」というインタビューに対して「家を買って、子供がいるだろう。ひょっとしたらバンドも続けているかもしれない」と答えている。奇異な自我も願望もなく、普通のサラリーマンとしてあるだろう、と応える谷口には『ネオ・ハードコア・テイル』の目指した"いわゆるハードコア"にたいする型破りがみてとれる。そして、ハードコアとは生きることによって実践される基本理念にも通じている。実際に彼の実践したfOULは間違いなく型破りなハードコアだった。

fOULは、彼らを目撃したことがある人間にとっては、その不在によってより存在感の高まるバンドだと、改めて思う。「こんなバンドはいないな」と思わされる。思わされ続ける。

Vo/Gtの谷口健、Drの大地大介は現在、BEYONDSを再結成。現在も活動を継続している。

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Baの平松学はbloodthirsty butchers射守矢雄と"射守矢雄と平松学"を結成。現在も活動を継続している。

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fOULは今も、休憩をつづけている。

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*1:EVIL SCHOOLは白塗りのニューウェーブニューロマンティック、ゴシックのバンド、きわめて短期間の活動だった。