チャイニーズ・シューゲイザー・レポート

友人が「Apple Musicでチャイニーズ・シューゲイザーというリストをレコメンドされて気になったんだけど、見失ってしまった」というので手動で作ってみた。

中国では欧米と同じくドリーム・ポップがシューゲイザーの隣り合った場所にあって、ローカルではドリーム・ポップの勢力が強い。シーン・ローカルで相互に影響を与えあったバンドと、初期からグローバルの影響下にあったバンドでは明確に音像がかわる。完全な偏見だが、ドリーム・ポップはローカル、My Bloody Valentine直系のシューゲイズはグローバル、と言っていいのではないか。

しかし、黎明期のローカルを支えたThe White Tulipsがインディー・レーベル・生煎唱片を、そして生煎唱片が新世代のバンドを世界へ送り出している。そこにはあきらかな世代のつながりと洗練がみえる。

初期の中国インディー・シーンはサラ・レコードから影響をうけた手作りの箱庭だ。サラ・レコードから引っ張って中国インディーを紹介できるのではないかと思ったら、先にやってる記事があった。ぶっちゃけ、これを読んだほうがいい。

daily.bandcamp.com

2010年から2015年にかけてローカル・シーンのスモールサークルが拡大していく様子をバンドとレーベルの両面から眺めるのも一興だろう。2015年移行、シティポップやヴェイパーウェーヴがもたらした音響がシューゲイズの幻想的憧憬につながっていくのは世界的な流れともいえそうだ。

初期の中国シューゲイザーシーンの雰囲気を知るにはコンピレーションアルバム『Nerd Wire』や『Asian Shoegaze Compilation Vol. 1』を聞くのが手っ取り早い。

以下、友人の喪失したレコメンド・リストにおそらく含まれていたであろうと思われるバンドを紹介する。どのバンドもだいたい簡体字繁体字、英語名があるのだが、英語名に統一した。なるべく結成年、活動歴を載せたので世代感も味わってみてほしい。

Default

北京。北京郵電大学の学生が中心となって2016年に結成。2017年5月13日、EP『California Nebula』をデジタル・リリース。発表から三日後に生煎唱片から連絡をうけ、CDリリースへ。2019年1月にファーストアルバム『Life In A Vacuum』、2020年9月にセカンド・アルバム『Can You Hear The Whistle Blow ?』をリリース。一貫して英詩をつかっており、サウンドにも世界を射程におさめた雰囲気がある。結成3年目にしてSlowdiveオープニングアクトを務めた。

Forsaken Autumn

上海。2011年6月に結成後、11月に解散。2012年8月に再始動した後はコンスタントに活動を続けている。中国のシューゲイザー・シーンはドリーム・ポップ要素の強いバンドが多いのだがForsaken Autumnは活動初期からMy Bloody Valentine直系のオリジナル・シューゲイザーへの撞着を隠さない。多くの海外バンドを中国へ招牌し、国内シューゲイザー・シーンを支えている。

City Flanker

浙江。2013年結成。2015年8月にEP『Let Me But Listen』をリリース。2017年、奇通音楽とサイン。2017年2月14日のEP『Sound Without Time』からシティポップ・ヴェイパーウェイヴ以降を感じさせるデジタル・ノスタルジーの強いサウンドに転向。

The Cheers Cheers

浙江。City Flankerを脱退した王客观のソロプロジェクトとして2016年に結成。

Endless White

陝西省西安市。2015年4月に結成されたThe Benderが改名。2016年6月にEP『白​日​过​尽』をリリース。初期は疾走感あるポストロックだったが2018年9月4日リリースの『Flow West to You』から幻想的なノイズ、ドラマティックな曲作りが強くなった。「My Little Perfect World」のラストへ向かう展開は白眉。

Jo's Moving Day

広東省汕頭市。2020年11月14日、結成。2021年10月13日、アルバム『Itinerary』をセルフ・リリース、流通は生煎唱片。後述するCheesemind、yourboyfriendsucks!、Pocari Sweet、Yellow Light Garageのメンバーによるスーパー・バンド。キャリアにふさわしいクオリティと落ち着いた佇まいにも関わらず地味なバンド名に好感がもてる。

2D Foil

北京。2019年3月結成。2019年7月19日、『:​​​-​​​D Foil』を新興のLetter Recordsからリリース、カタログナンバー2番。

Sheep's Bed

江蘇省。2020年結成、2021年8月31日『Summer Arousal』をLetter Recordsからリリース。バンド名はヴォーカルの宅録プロジェクトのデモテープから摂られており、バンドのサウンドもベッドルーム感にあふれている。個室の窓から覗く夏の日マインドあふれる感傷的な作品。

Lucid Express

香港。2014年結成。Thudから改名。長いキャリアにも関わらず音源をリリースせず、日本、US、UKツアーを成功させていた実力派現場バンド、にも関わらず2019年の香港デモ、そしてパンデミックによって活動の場をスタジオに移さざるを得なくなった。メンバーは全員が本職と兼業なので仕事の合間を縫いながら2021年7月16日、ファースト・アルバム『Lucid Express』をリリース。この音源のリリース自体が時代の反映にならざるを得ない。

Pale Air

上海。2017年結成。Godspeed You! Black EmperorSlowdive、Yuck影響下にありシリアスなシューゲイザーを展開している。結成後、すぐに生煎唱片とサイン。2018年9月16日に『NEO Shoegazer』というタイトルのシングルを出しているが、ネオ・シューゲイザーを標榜しているのではなく活動拠点でもあるNEO Barから取っているだけ。たぶん。

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以下、中国シューゲイザーの黎明期を支えた、抑えておくべきバンドをいくつか紹介する。正直、プロフィールが全然わからないバンドも多い。

Gatsby in a Daze

浙江省杭州市。2011年に結成、「药味流行(薬味ポップス)」を自称している。メンバーはそれぞれ離れて暮らしているので活動はまばらだが、長く、生活密着型で活動を続けている。2015年5月『(((』をリリース。基本的にはサイケデリック・ロックだが、活動歴の長さからも中国シューゲイザー代表格として取り上げられることが多いよう。ミツメの中国ツアーのサポートも。

Chestnut Bakery

広東。2011年に大学の同級生らで結成。2015年11月22日、深圳のBoring Productionsよりファースト・アルバム 『Diaries』をリリース、即完売。アルバムをリリースした後、メンバーは留学などで散り散りになり活動できていないが、解散もしていない。2019年1月6日、Chinese Footballのメンバーが京都で運営しているレーベルよりジャケットを一新して再リリース。

yourboyfriendsucks!

広東省広州市。2016年、全国ツアー後に解散。アルバムタイトルが『第​一​集』だったため、続編を待ち望む声が続いた。『第一集』は演奏もつたなく録音も褒められたモノではないが、カレッジ・ロックに心を割いたことがある人であれば、このアンバランスな青さが、ある場所、ある世代だけのマスターピースになるべき音源である気配が感じ取れるはずだ。2020年に上海でのライブのため再結成、2020年4月、待望の『第二集』をリリースして、全活動を終了。

Baby Formula

北京。2012年結成。2013年10月14日、『Baby Formula』をリリース後、解散。ダウナー・ポジティブが心地よいインディーロックの宝物。仮に来日していたらtoddleやher pianoとブッキングしてほしかった。

The White Tulips

福建省廈門市。2012年に結成。2015年5月3日『Fondle』をリリース。アルバムはブログ「SHOEGAZER ALIVE」のイヤーベストにも選出され、2017年には来日ツアーを敢行した。解散後。ボーカルはCheesemindを結成。メンバーはインディーレーベル・生煎唱片を結成。

アリババ傘下Xiomi Musicから音源をリリースしていたため、2021年2月5日のサービス・クローズに伴い、国内から音源が消失したことを憂いたThe White Tulipsの熱烈なファンである生煎唱片のスタッフがレコードの再プレスを企画した。2021年7月8日、フィジカル・デジタルで再リリース。

Cheesemind

福建省廈門市。2012年結成するも、活動休止。2019年からドラムが加入し、バンド編成になって活動を再開した。2020年3月27日、Sango Recordsと中国Qiii Snacks Recordsからアルバム『告別事務所』をリリース。

Pocari Sweet

広東省広州市。2018年結成。ファーストEP『Gentle Moon』を生煎唱片からリリースして2019年、解散。EP一枚で解散したのが惜しまれる好作品。メンバーはJo's Moving Day、またChestnut BakeryのRyeのバックバンドに。

Sound and Fury

四川省成都市。2011年結成、2017年11月24日『Sprout』リリース。こういう地味だけど長く続けているバンドだけがもちえるブレなさがいい。ギターとヴォーカルは夫婦、ドラマーはカナダ人。

Last Goodbye

youtu.be

北京。2015年冬、結成。バンド名はThe Killsの曲から。2016年12月28日にリリースされた北京のインディ・ペンデントレーベル・草台回声からリリースされたシューゲイザー・ドリームポップのコンピレーション『Nerd Noise』で初めての音源を録音。2019年3月21日、Ruby Eyes Recordsよりファースト・アルバム『Last Goodbye』リリース。

Atta Girl

広東省深圳市。2016年結成、2016年11月24日、ファースト・アルバム『Everyone Loves You When You Were Still A Kid』をインディーズ・リリース。

The Pillow man

youtu.be

浙江。2015年8月結成、2017年4月解散。解散後に音源がリリースされ、違法アップロードでじわじわ人気が出ている様子。演奏も音質もつたないが強烈に気になる一枚。